「チルから暴力へ」~2019年私的ベスト50選~
はじめに
今年も年間ベストの時期がやってまいりました。僕にとってこの2019年の音楽シーンが一体何だったのか自分なりにまとめてみると、題にある通り「チルから暴力へ」という言葉に集約されるように思われます。これは一体どういうことなのか。僕が見るに(R&B/Hip-Hopに連綿と受け継がれた部分があるにせよ)チルという感性が近年のポップシーンにおいて最大の成果を上げたのはFrank Ocean『Blonde』ということになるでしょう。ドロップされてから三年もの月日が経ってなお多くの人を惹きつけてやまない謎多き名作ですが、それが象徴していた「チルでメロウ」なムードは2019年に至って徐々に後退しつつあるように思えます。そんな中発表されたSolange『When I Get Home』はこのチルの時代の一つの極点でありまさにその終わりを告げるものとして映りました(念のために言っておきますが選外です)。ではその次に来る暴力とは一体何だろうか、「チルから暴力へ」という図式では拾いきれないものがあるとすればなんだろうか、以下のリストはそのようなことを考えたり考えなかったりして作りました。ではまず50位の作品から見ていきましょう。
第五十位 Bring Me The Horizon『Amo』
music.apple.com 一メタルコアバンドだった彼らが音楽性を徐々に変化させていく中でThe 1975の最新作にも近いフィーリングを獲得するに至ったアルバム。これからもっと化けるはずとの期待を込めてのこの順位です。
第四十九位 MON/KU『m,p』
music.apple.comアルバムではなくEPですがこれだけは入れたかった。Twitter&サンクラ発のアヴァンポップの才能。来たるべきアルバムが破茶滅茶に楽しみです。
第四十八位 LUNACY『Age of Truth』
music.apple.comインダストリアル×シューゲイザー×アンビエントな暗黒音響が結果的にOPNに接近したような出来で素晴らしいです。ジャケ買いの成功例。
第四十七位 Waste of Space Orchestra『Synthesis』
music.apple.comOranssi PazuzuとDark Buddha Risingを中心としたコラボプロジェクト。ある種シューゲイザーにも近い漠としたギターサウンドに鋭いスクリームが乗る音像はなるほど確かにクセになりますね。
第四十六位 MORRIE『光る曠野』
日本のV系の始祖によるソロ最新作。ポストロックとメタルを独自の世界観、哲学でもって結びつけたようなベテランのそれとは思えない新鮮な音の数々にビビります。
第四十五位 Car Bomb『Mordial』
music.apple.com幾何学的な印象さえ受けるテクニカルなメタルミュージック。激しさの中に不意に投げ込まれる叙情的展開に泣ける。
第四十四位 Jakub Zytecki『Nothing Lasts, Nothing’s Lost』
music.apple.comバカテクプログレッシブロックにベースミュージックの手法が乗ったような新しさ。ジャケットそのままの美しい音世界が鳴らされています。
第四十三位 Northlane『Alien』
music.apple.comメタルコアの最先端。どこかDeftonesを思わせる美しさを垣間見せながらも基本は超攻撃的。今後このジャンルのスタンダードになりそうなアルバムです。
第四十二位 65daysofstatic『Replicr, 2019』
music.apple.comまさか彼らがここまでアブストラクトな作風になるとは。もはやポストロックというジャンルさえ脱ぎ捨て独自のダークな音響を追求しています。
第四十一位 KOHH『Untitled』
music.apple.com彼の苦悩をかなりストレートに反映しているアルバムだと思います。ラスト曲『ロープ』の「全然見た目は違うけど同じ」というリリックが刺さる。
第四十位 Holly Herndon『PROTO』
music.apple.comAIを用いて制作されたという本作。しかしながらここにあるのは機械のもたらすぎこちなさではなく確かに人間による普遍的なポップスなのです。
第三十九位 Antwood『Delphi』
music.apple.com架空の女の子、Delphiをテーマに作り上げられたアルバム。Deconstructed-Club的な音ですが先述のコンセプトと相まって非人間的な音に架空の人間の影を見出す不気味さを感じられます。
第三十八位 Minor Pieces『The Heavy Steps of Dreaming』
music.apple.com去年のベストにも選出したIan William Craigも参加する新人ユニットの1st。アンビエントを基調としたトラックにEtherealなボーカルが乗るサウンドを聴くと天にも上るような心地になれますね。
第三十七位 Petrels『The Dusk Loom』
music.apple.com宗教的なニュアンスを孕みつつもアンビエントからトランスまで駆け抜けていくその音楽性は体に直に訴えかける何かを持っているように感じられます。
第三十六位 Arthur Moon『Arthur Moon』
music.apple.comブルックリン出身のアーティスト。電子音と生演奏が絡まり合う複雑極まりない構成をポップに聴かせる手腕はNYの中村佳穂と言うべきか。
第三十五位 Thom Yorke『ANIMA』
music.apple.com近年のバンドやサントラ仕事のポストクラシカルなアプローチとは打って変わってエレクトロニカ的作品に。『Twist』はやはり名曲。
第三十四位 black midi『SCHLAGENHEIM』
music.apple.comKEXPの動画で一躍有名になったロックバンドことblack midi。今年のライブ行きたかったですね。個人的にはNINっぽい入りの『Years Ago』に一番未来を感じます。
第三十三位 Clipping.『There Existed An Addiction to Blood』
music.apple.comIDM的トラックにバチバチのラップが乗るClipping.の新作には今が旬のJPEGMAFIAも参加。どこかニューウェーブ的なところを感じるのが良いですね。
第三十二位 Black to Comm『Seven Horses For Seven Kings』
music.apple.comポストクラシカルを思いっきりホラー/暗黒方面に寄せたような異形のアルバム。シューゲイザー的なアンビエント『Angel Investor』がフェイバリットトラック。
第三十一位 COOL FANG『Sparring』
filthybroke.bandcamp.comほとんどインダストリアルに近い金属的なバンドサウンドに微かにエモなボーカルが乗る完全に未知のサウンド。なぜか感動的なのが少し悔しい。
第三十位 The Murder Capital『When I Have Fears』
music.apple.com近年の何度目かのポストパンクの盛り上がりを象徴するかのようなアルバム。テンション一発で乗り切ることなく曲ごとに緩急をつけた構成が素晴らしい。
第二十九位 Kim Gordon『No Home Record』
music.apple.com言わずと知れたソニックユースのメンバーことKim Gordonのソロ作。Billie Eilishに代表される近年のトレンドをノーウェイヴの手法で解釈したような趣も。
第二十八位 Mom『Detox』
music.apple.comこのまま行けば初期七尾旅人的な化け方をするのでは。よりドープにより深く取り返しのつかないポイントまで突き進んで欲しいです。
第二十七位 Ohtearsofjoy『Bonsoir, Fucker』
music.apple.comサイバーで暴力的でやさぐれたラップ/R&Bアルバム、つまりは最高。JPEGMAFIAあたりと早く絡んで欲しい。
第二十六位 Dos Monos『Dos City』
music.apple.com日本のヒップホップシーンに現れた最大の異端児であり智慧者。今年の新曲『Dos City Meltdown』を含めてバチクソかっこいい。
第二十五位 100 gecs『1000 gecs』
100gecs.bandcamp.com音楽を続ける気があるのかどうかさえわからないが、このヤケクソ気味な一瞬の快楽だけは本物。
第二十四位 Kai Whiston『No World As Good As Mine』
music.apple.comUK Bassとロックが交錯するありそうでなかった新世代のポストロック。14分弱のもはやプログレの域に達した『Ⅳ-No World』は必聴。
第二十三位 Ifriqiyya Electrique『Laylet El Booree』
music.apple.comインダストリアルロック×アフリカ音楽という異色としか言いようのない取り合わせですがこれがまぁすこぶるかっこいいです。機械の軋みと大地の土埃の出会い。
第二十二位 Rainer Landfermann『Mein Wort in Deiner Dunkelheit』
music.apple.com隙間の多いバンドサウンドにスクリームが乗るアヴァンギャルドメタル。その異形ぶりはどこかENDONを思わせるところも。
第二十一位 Christian Scott『Ancestral Recall』
music.apple.comジャズをそこまで掘らない自分でもこれにはやられました。全地球的なスケールで鳴らされる音の数々になるほどこの人に見えているビジョンは違うと唸らされる。
第二十位 Alon Mor『Lands of Delight』
music.apple.comいくつものレイヤーが重なり合い混沌としたサウンドをトライバルなリズムで強引にドライブしていく様はまさに暴力。フジの深夜枠でぜひとも観たい。
第十九位 Jack Larsen『Mildew』
music.apple.com「多幸感」という言葉は麻薬などを通じた過度な幸福感のことを本来指すそうですが、『Mildew』はその意味においてまさしくケミカルなユーフォリアを湛えたアルバムと言えるでしょう。
第十八位 Leprous『Pitfalls』
music.apple.comJames Blake以降の世界でいかにしてスタジアムロックを鳴らすかという困難な課題にプログレッシブメタルの手法を用いて見事に答えてみせた傑作。MUSE並みに売れてほしい。
第十七位 Kanye West『Jesus Is King』
music.apple.com正直順位を決めるのにここまで困った作品はありませんでした。間違いなく今年最大の問題作であり、これからの彼のキャリアを左右する(かもしれない)という意味で重要作でしょう。
第十六位 Tyler, the Creator『IGOR』
music.apple.comクラウトロックとトリップホップが現代ヒップホップシーンきっての異才によって再び生を受けた、そんな印象さえ受ける傑作です。今年最も「ロックファン」に勧められるヒップホップアルバム。
第十五位 Patricia Taxxon『Sixteen Sketchbooks Ago』
patriciataxxon.bandcamp.com多作かつ玉石混交、Bandcampに生息する怪人ことPatricia Taxxonの2019年作ですがこれは素晴らしい。ぶっきらぼうなノイズの反復の中に微かに残るエモーション。
第十四位 Flume『Hi This Is Flume(Mixtape)』
music.apple.comまさかこの人がSOPHIEあたりを彷彿とさせるサウンドを響かせることになろうとは。現在形のノイズ/暴力/インダストリアル。
第十三位 Giant Swan『Giant Swan』
music.apple.com冒頭の声ネタ使いからして勝利を確信しました。EBMに目覚めたArcaのような暴力的サウンドが終始続く最高のインダストリアルテクノ。
第十二位 Liturgy『H.A.Q.Q.』
music.apple.com知性と衝動が全速力でぶつかり合う9曲45分。大名曲『GOD OF LOVE』は序章でしかなかった。
第十一位 Devin Townsend『Empath』
www.youtube.comメタル界の巨人Devin Townsendのソロアルバム。どこまでも明瞭なサウンドはもはやニューエイジを連想させるに至り、天上界への階梯を駆け上っていくようです。
第十位 Chelsea Wolfe『Birth of Violence』
music.apple.com前作にてドゥームメタルに接近した彼女ですが今作では一転フォーク路線へ。しかしながら異様なまでの奥行きを湛えたそのサウンドはまさに現代のゴシック=暗黒と呼ぶにふさわしいもの。
第九位 Billie Eilish『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』
music.apple.com一番の話題作と言っていいでしょう。低音と囁きが支配するこの音世界はまずサグいポップスとして消費するのが正しい。
第八位 Pedro Kastelijns『Som das Luzis』
music.apple.com今年最大の新人の一人。Tame Impalaさえ想起させる極上のサイケデリアをサウンドコラージュ的に掻き混ぜてみせた完全に未知の音が鳴っています。
第七位 JPEGMAFIA『All My Heroes Are Cornballs』
music.apple.comチルと暴力、嘘と真実がアイロニカルに反転し続けるポストトゥルースの時代のヒップホップ。失望することと賞賛することは紙一重と怪人JPEGMAFIAは嘯いて見せるのだ。
第六位 Slipknot『We Are Not Your Kind』
music.apple.com「俺たちはお前らとは違う」という宣言を題に冠したこのアルバムにおいて彼らはポップスの世界に再び騒音と軋みを召喚せしめようと試み、そしてそれに成功しています。チルから暴力へという時代の流れを象徴するアルバムの一つ。
第五位 Uboa『The Origin Of My Depression』
music.apple.com鬱、トラウマ、絶望。長く暗いトンネルの先に決して希望を見出さない誠実さを持ったこの作品はしかし同時にある種の癒しとしても機能します。リアルな痛みにこそ安住の地を見出す人のためのエクスペリメンタルミュージック。
第四位 TOOL『Fear Inoculum』
music.apple.com13年ぶりに放たれた暗黒の巨魁による新作は聴く人の時間感覚を狂わせ変拍子とポリリズムの迷宮へと誘うでしょう。TOOLはTOOL以外の何者でもないことを証明するタイムレスな傑作。
第三位 THE NOVEMBERS『ANGELS』
www.youtube.com架空のNEO TOKYOと現代の東京がインダストリアルロックを介して交錯する、まさしく今の日本でしか生まれなかったであろう大傑作。
第二位 長谷川白紙『エアにに』
music.apple.comケイト・ブッシュやスクエアプッシャー、コーネリアスといった異才たちの霊魂をインストールしたAIが致命的なコンピューターウイルスに感染したのちに吐き出したとも言うべきアルバム『エアにに』はまさに2100年代のアートポップと称されるにふさわしい。
第一位 Wilderun『Veil of Imagination』
music.apple.comこの上ない壮大さにかすかに幽玄と退廃をたたえた精妙極まりないサウンドはフォークメタルという枠を遥かに飛び越え、このアルバムをディケイドを締めくくるにふさわしい最大・最高の作品にしています。
おわりに
以上で僕の年間ベストは終わりです。上位になればなるほど「暴力濃度」が高くなっていくのが笑えますね。チルが後退し暴力の時代がやってくるのか、それともこれは一過性の現象に過ぎないのか、もっと違う未来がやってくるのか。どうなるのかはわかりませんが「きっと想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる」のでしょう。
年間ベストアルバム50~1
はじめに
どうも李氏です。今回年間ベストの記事を書くにあたって50枚選ばせていただきました。あれがないこれがないといろいろ不満があるでしょうが、あくまで個人のベストとして楽しんでいただけると幸いです。さて振り返ってみれば今年も素晴らしいリリースが相次ぎ、時には「テン年代の総決算」という言葉まで飛び交う始末。来年はそして次のディケイドはどんな音楽が鳴っているのか。僕のものも限らず、個人の年間ベストや各メディアの年間ベストを眺めている中で見えてくるものもあるかもしれません。とまあ大風呂敷を広げておいてなんですがさっそく、50位のものから紹介しましょう。
50位 Ian William Craig / Thresholder
今年聞いたアンビエントその1。Lowの新譜とも共振するような繊細なノイズ音響に引き込まれました。オペラをバックボーンにしているらしくそれも驚き。
49位 JIL / Emotional Heat 4A Cold Generation
フランクオーシャンから始まるオルタナティブR&Bの潮流の一端に数え上げられるアーティストでしょう。全曲にみなぎるサイケデリアにズブズブと沈み込んで行きます。
48位 Low / Double Negative
シューゲイザーから不純物を取り除いていったらノイズアンビエントが残った、そんな凄まじい音響がここでは確かに鳴らされています。
47位 Yves Tumor / Safe In The Hands Of Love
ベン・フロストからザ・キュアーまで、雑多そのものという内容のアルバムですが、その中にも1つの美意識が貫かれています。
46位 Mr. Twin Sister / Salt
清新なトリップホップ。Massive Attackの『Protection』を現代に蘇らすとしたらこの形しかない。
45位 NINE INCH NAILS / Bad Witch
再始動後の作品では一番いいのではないでしょうか。ジャズへの接近もこれまでになかったもので面白い。
44位 ROTH BART BARON / HEX
あくまでロックバンドとしての形式は崩さずどこまで挑戦的なことができるか、その努力の結晶がこのアルバムであるように思えます。歌の力強さが素晴らしいですね。
43位 Various Artists / The Wall [Redux]
ピンクフロイドの遅延の感覚がヘヴィミュージックを通過することで見事に昇華されています。あのメルヴィンズが参加しているのが何気にすごいポイント。
42位 Bliss Signal / Bliss Signal
ブラックメタル×電子音楽という何とも美味しい組み合わせです。こういうのは本当聴くのをやめられない。
41位 Amnesia Scanner / Another Life
鉄と血の音楽。
40位 Lauren Auder / Who Carry's You
True Pantherからの新人。Waveムーブメントやヒップホップからの影響がありつつも独自のヨーロッパ的美意識を感じさせるアーティストです。今年のロンドン関連では一番好きですね。
39位 Pendant / Make Me Know You Sweet (OUEST099)
今年聴いたアンビエント作品その二。異様な緊張感に満ちた音像です。普段はこの種の音楽はあまり聞かないたちなのですがこれには流石にやられてしまいました。
38位 落差草原WWWW / 盤
Jambinaiあたりも想起させるアジアンエクスペリメンタルロックミュージック。次の来日時には絶対に駆けつけたい。
37位 mewithoutyou / [Untitled]
どこまでも真っ直ぐなオルタナティブロック。個人的にはCloud Nothingsよりもこっちでした。
36位 DRUGONDRAGON / どっかの誰か 誰かの何
単にシューゲイザーとくくるにはあまりに禍々しくあまりに切実なポップソング達。Xinlisupremeを更新するのは彼なのかもしれません。
35位 Antonio Loureiro / Livre
Twitterのフォロワーの方のお勧めで知った一作。ジャズやポストロックといった要素が継ぎ目なく融合し、芳醇な音楽世界を作り出しています。
34位 Thom Yorke / Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)
ピアノの弾き語りをさせたら彼の右に出るものはいない。歌ものだけで言えばソロ作のベスト。
33位 The Samps / Breakfast
どこまでもサイケデリックでアブストラクト、でありながらポップ。
32位 Oracle Hysterical / Hecuba
こんなのジャケからして最高に決まっています。二曲目の『100 Tongues』がレディオヘッドとsalyu×salyuの融合のようで素晴らしい。
31位 Cheem / CheemTV
パワーポップの完璧な蘇らせ方。ファンク、エモ、ポストロックと様々な音楽的語彙を駆使するその手練れぶりはThe 1975に続くかもしれません。
30位 The Armed / Only Love
うるさい音楽はいつだって最高なのです。
29位 Nahja Mora / As Death
OPNとFront Line Assemblyの間を結ぶ補助線のようなアーティストです。過去3作でてますがどれも素晴らしいですね。
nahjamora.bandcamp.com
28位 OddZoo / Future Flesh
シューゲイザー×メタル×エレクトロという文句なしの組み合わせ。EDM的な文脈にもハマりそうです。
27位 The Body / O God who avenges, shine forth. Rise up, Judge of the Earth; pay back to the proud what they deserve.
26位 Zeal & Ardor / Strange Fruits
ブラックミュージックとブラックメタル。半ば冗談めいた組み合わせですがこれがべらぼうにかっこいい、来年のダウンロードフェスに呼ぶべきでしょう。
25位 Vessel / Queen of Golden Dogs
ArcaとJlinとSOPHIEのキマイラ、そんな化け物のようなサウンドが確かにここで鳴らされています。8曲目のPapluが白眉。
24位 崎山蒼志 / いつかみた国
アコギの弾き語りという手垢のつきまくった手法でここまで未聴感を出せるとは驚きです。今後の活躍に期待したいですね。
23位 空中泥棒 / Crumbling
こんなThe Age Of Ads期のスフィアンすら彷彿とさせるようなバンドが、同じ東アジアの地にいたとは率直に驚きでした。日本盤はなんとしてでも手に入れます。
22位 Floex & Tom Hodge / A Portrait of John Doe
ポストクラシカルに分類されそうな音ですが、こういうスケールの大きいエクスペリメンタルミュージックには弱いですね。
21位 People In The Box / Kodomo Rengou
フィリップ・K・ディックの描く郊外、須田剛一の『シルバー事件』と固有名詞が浮かんでは消えていく。個人的にはP-Modelなんかと近しいところがあるように思います。
20位 Anna Von Hausswolff / Dead Magic
自分はJulia Holterよりも断然こちらを推したいですね。呪いと祝祭が表裏一体であるような世界観というか、とにかく必聴です。
19位 Lack The Low / One Eye Closed
まず何よりも歌ものとしての強度に惹かれました。制作に三年かかったというのも納得の完成度。
18位 IDLES / Joy as an Act of Resistance
知性と衝動の弁証法の果てに男たちは汗まみれの高みへと向かう。2018年最高のパンクミュージック。
17位 Zanias / Into The All
電子音楽と幽玄、深くリバーブのかかったその声は僕らを彼岸へと導く。
16位 ARS WAS TAKEN / HOLD ON 2 ME
サイバーグランジとでも言うべき音楽性。第三次世界大戦後の東京では多分こんな音が鳴っている。
15位 BROCKHAMPTON / iridescence
今一番ライブを見てみたいヒップホップクルー。来年のサマソニあたりどうでしょうか。
14位 Mom / PLAYGROUND
寂しさと隣り合わせの日常を生きる僕たちに精一杯の魔法を。クラフトヒップホップはきっと君に優しい。
13位 George Clanton / Slide
夏の終わりにこれ以上ふさわしい音楽があるでしょうか。シューゲイザーもレイヴも全て通過した先にある白と青。
12位 Albatre / The Fall of Dammed
ジャズバンドとハードコアの見事な融合。ヘヴィなサックスのなんと艶やかなこと。
11位 Conduit / Drowning World
ロックが死んだなどと寝言を吐く人間にはこれをぶつけてやりましょう。殺気しかない10曲34分。
10位 THE NOVEMBERS / Live sessions at Red Bull Music Studios Tokyo
この国におけるモダンなロックとは何か、その答えの1つがTHE NOVEMBERSだと思います。『ANGELS』本当期待しかありません。
9位 Moses Sumney / Black in Deep Red, 2014 - EP
レディオヘッドを超えられるのはこの男しかいない、モーゼス・サムニー。
8位 Rafiq Bhatia / Breaking English
楽器を鳴らすということ。それらが響き合い一つの空間をなすということ。魅惑に満ちた音響の企み。ノイズと感情。傑作。
7位 Anguish / Anguish
ヒップホップ界最大の異端児Dalekとクラウトロックの雄Faustとのコラボ、良くないわけがないですがこれがまた凄まじい。ノイズ、ジャズ、ロック、ヒップホップといった諸ジャンルが渾然一体となって聴き手に襲いかかってきます。
gutfeelingisanguish.bandcamp.com
6位 cero / POLY LIFE MULTI SOUL
白も黒も、西も東も、仮想も現実も、何もかも飲み込んだバンドミュージックの巨大な潮流の最先端に位置付けられる一作。マスターピースですね。
5位 KID FRESINO / ai qing
Anderson .Paakの『’Til It’s Over』の続きを夢想するとしたらきっとこんなアルバムになるはず。ピリオドの向こう側にある未来。
4位 The 1975 / A Brief Inquiry Into Online Relationships
自分たちの『OK Computer』や『The Queen Is Dead』を作る、そう宣言したマシューの言葉は決してビックマウスでは無かった。テン年代の総括にしてロック史の新たな展開を告げる傑作。
3位 三浦大知 / 球体
三浦大知とNao'ymt の緊密なコラボレーションが生んだ今作は、システマティックな分業制というよりもむしろ属人的で職人的なストイックさの産物と言えるでしょう。2018年のJ-POPシーンの生んだ最大の果実。
2位 中村佳穂 / AINOU
うたとトラックが躍動しながら精妙に絡み合う。ポップ音楽の自由と歓びがここにある。
1位 Jeremy Dutcher / Wolastoqiyik Lintuwakonawa
時代を完全に超越した、音楽の神秘そのものであるようなアルバム。これ以外に今年のベストはあり得ない。
という訳で今年のベストを振り返ってみたわけなんですけど、こう共通のシーンだとか共通のジャンルであったりだとかが全然読み解けなくて混沌としているという印象を受けました。いろんなところから矢継ぎ早に傑作がリリースされるのでそれを追いかけるのに必死という感じがありましたね。来年もこの勢いが続いてほしいものです。
2018/11/11リキッドルームTHE NOVEMBERSワンマン公演がとんでもなく良かったという話
今回参加させていただいたTHE NOVEMBERSのワンマンが衝撃的な代物だったので半分休止状態だったこのブログを使って簡単に感想をまとめておきたいと思う。まず全体のセトリを見てみよう。
初期曲の『ア_-オ』から始まった今公演はいわゆる彼らのドリーミーサイドの曲を冒頭に配置するような展開となっていたが、これがまた単なるドリームポップに終わらないのが彼らの面白いところ。ドラム担当吉木が刻む重たく荒々しいビートがロックンロールとしての側面をにわかに表面化させ、曲の世界観の中で両者が拮抗しあい昇華されていく様は圧巻であった。『美しい日』の終盤では小林のボーカルは半分シャウトに近いそれと化し、続く『Journey』ではダークなノイズが会場を覆った。この時のノイズはまさしく包み込まれるというべきもので音響体験としてはほとんど未知のそれであった。このあたりから徐々に暗黒へと傾いていく会場、『ひとつにならずに』ではNIN顔負けのインダストリアルノイズをぶちかまし、続いて『鉄の夢』『Ghost Rider』『dysphoria』では暗黒ダンスパーティーともいうべき異形のヘヴィミュージックを観客に叩き込んでくるTHE NOVEMBERS。『彼岸で散る青』で若干クールダウンさせつつ圧巻のボーカルワークを見せつける小林、続く『dogma』『Xeno』『黒い虹』で再び観客を暗黒の熱狂のるつぼに飲み込んでいく。その後「11年前の曲をやります」というMCとともに演奏されたのは『バースデイ』、これがデビュー間もない曲とは思えないくらいの代物で、今のTHE NOVEMBERSがこれをやる意味と必然性に満ちた特大の轟音が会場を貫いていった。そして本編ラストの曲『Hallelujah』は観客を含めた全員の生を肯定するかのような雄大なロックナンバーで、これで本編が終了。
続いてアンコールではなんと未発表の新曲を初めて披露。打ち込みを主体としたドリームポップという趣でこれまでの彼らの作風を考えれば明確な新機軸と言えるだろう。来るべきニューアルバム『ANGELS』への期待を高めつつ、アンコールラストの曲として『いこうよ』を演奏。「愛なき世界、爆音を震わせる、君の中で何かが変わる」という剥き出しになったバンドのアティチュードを差し出された僕はただただ茫然と小林のシャウトを眺めているほかできなかった。圧倒されていたし何よりも美しかった。
バンドの様々な側面を見せながらそこに通底する美学をこれでもかとばかりに突き付けてくるこの恐るべきショウは、今のTHE NOVEMBERSが今まさに一つのピークをむかえつつあることを見事に証明しているのではないか。僕はそう思う。
OPNとFront Line Assemblyが交わるところーーーNahja Moraの可能性
僕がこの記念すべき一回目のブログで紹介しようとするのは、バルチモア出身のホラーインダストリアルミュージックを自称するNahja Moraだ。
彼らは既に本作を含め3枚のアルバムを発表しているが、今回取り扱うのは最新作の『As Death』である。この禍々しくブルータルなエレクトロノイズの応酬の中でも一際大きな輝きを放つ『this is not hopelessness』をベストトラックとしてこれから検討していくこととする。(http://nahjamora.bandcamp.com/album/as-death)
静かなノイズトラックとともに最初進行するこの曲は突如強烈な轟音とともに引き裂かれ、無機質なインダストリアルビートがそれに続く。禍々しいうめき声のようなものが聴こえ出し、さながら地獄の様相と化する。終盤からはインダストリアルビートもさらに性急さを増し混沌の中で曲は突然終わる。
ここにはOPNがGarden of Deleteで見せた電子ノイズの応酬も、Front Line Assemblyのインダストリアルビートもそれら全てが一体となって機能しており、いわば彼ら二組の合いの子ともいうべき楽曲に仕上がっている。
ここで例に出した二組のキャリアをざっと追ってみよう。OPNはブルックリンを拠点とするミュージシャン、ダニエル・ロパティンによるソロプロジェクトであり、ノイズ・アンビエント・ドローンとそのジャンルは多岐にわたっている。現在までに8枚のアルバムを発表しいずれも批評筋から高い評価を受けている。
一方、Front Line Assemblyの側はどうか。元スキニーパピーのメンバーであったビル・リーブを中心に結成されたFront Line Assemblyは現在に至るまで活動を続け計19枚のアルバムを発表したが、そのどれもが著名音楽批評サイトであるPitchforkでレビューすらない状態となっている。
ここにOPNが象徴するであろうエクスペリメンタルミュージックとFront Line Assemblyが代表するエレクトロインダストリアルミュージックの間の溝を見ることもできるだろう。
この溝を乗り越える試みがなかった訳ではない。先ほど名前を挙げたOPNはエレクトロインダストリアルミュージックの方法論を一部取り入れる形でGarden of Deleteを完成させたし(https://m.youtube.com/watch?v=td-e4i2BL_Q)、Blanck MassのWorld Eaterではそれがより過激に推し進められている(https://m.youtube.com/watch?v=Afymin3h1mI)。
ただ注意が必要なのはこれらがある種のアイロニーとしての受容の側面を含んでいるということだ。単純なリスペクトというよりも「あえて」今これをする、そのような意図が見え隠れするのも事実だ。
翻ってNahja Moraへ戻ろう。彼らのホームページのデザインを見る限り、アイロニーというにはあまりにも深くインダストリアルの美学が刻まれているのがわかるだろう。(http://www.nahjamora.com/mobile/)
そう、奴らはマジなのだ。本気でインダストリアルな美学に殉じたまま、それらを奇形化させ解体し全く別のオルタナティブな音楽へと変成させようと試みている。そして、本作『As Death』を聞く限りにおいてその試みは大いに成功していると言わざるを得ない。